性同一性障害(性別不合)の原因は、今の医学ではまだはっきりわかっていません。体の要因として、遺伝・胎児期のホルモン・脳の性分化などが研究されています。
「生まれつきなの?」「親の育て方のせい?」と悩んで調べている当事者や家族の方も多いと思います。
この記事では、FtM当事者の筆者が、大学病院の専門医の資料や海外の研究をもとに、今わかっていることとわかっていないことを整理します。
※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療に代わるものではありません。性別の違和感で悩んでいる場合は、専門の医療機関に相談してください。
- 原因は現在も明確には解明されていない。特定の原因や仕組みは確立されていない
- 遺伝・胎児期のホルモン・脳の発達との関連が研究されている
- 生まれつきかどうかを、個人について判定する検査はない
- 親の育て方によって生じるという因果関係は、医学的に確立されていない
- 国内の受診者調査では、約6割が小学校入学前に違和感を自覚していた
性同一性障害の原因は?結論は「まだはっきりわかっていない」
性同一性障害(性別不合)が生じる原因は、現在も明確には解明されていません。遺伝的な要因や胎児期のホルモン環境、脳の発達との関連が研究されていますが、特定の原因や仕組みが確立されたわけではありません。
専門医が示した仮説:脳と体の分化の「食い違い」
岡山大学病院ジェンダーセンターの医師は、法務省の法制審議会に提出した資料で、当時の考え方を次のように説明しています(2016年1月の資料)。
性同一性障害の原因は、現時点では不明であるが、その多くは、脳と身体が男性と女性に分化していく際に、食い違いが生じることが主な原因ではないかと考えられている。
岡山大学病院 ジェンダーセンター「性同一性障害者の治療」(2016年)
体の性と、性別についての自己認識(性自認)が別々の方向に分かれた、という考え方です。ただし、これは2016年時点の仮説で、確かめられた原因ではありません。
学会のガイドラインは原因を定めていない
日本の診断・治療の基準である日本精神神経学会の「性別不合に関する診断と治療のガイドライン(第5版)」は、原因については記載していません。
原因がわからなくても、診断や治療はこのガイドラインに沿って受けられます。詳しくは後半で説明します。
海外のガイドラインも原因を解明済みとはしていない
アメリカ内分泌学会の2017年のガイドライン(Hembreeら)は、性自認の発達に生物学的な要因などが関わる可能性に触れています。
ただし、このガイドラインは主にホルモン治療についての指針で、原因や各要因の影響の大きさが解明されたとはしていません。

性同一性障害はなぜ起こる?研究されている3つの要因
原因として研究されているのは、主に「遺伝」「胎児期のホルモン」「脳」の3つです。それぞれの研究で何がわかったのかを見ていきます。
① 遺伝:双子の研究
遺伝の影響を調べる方法の一つが、双子の研究です。遺伝子がほぼ同じ一卵性双生児で、2人とも当てはまる割合が高ければ、遺伝の影響が大きいと考えられます。
ベルギーの研究チーム(Heylensら、2012年)が過去の報告をまとめたところ、一卵性双生児では23組中9組(39.1%)で2人とも性同一性障害でした。二卵性の双生児では、21組中0組でした。
一方で、この数字は症例報告が中心で、偏りが大きいと指摘されています。一卵性でも片方だけのケースが多く、遺伝だけで決まるわけではありません。
スウェーデンの全国の登録データを使った研究(Karamanisら、2022年)では、性別違和の診断歴がある人のきょうだい2,592人のうち、双子は67人でした。
双子の両方に診断歴があった例は、出生時に割り当てられた性別が同じ双子では見つからず、異なる双子では37%でした。研究チームは胎内の環境が関わる可能性を示していますが、対象が少なく、原因を証明したものではありません。
② 胎児期のホルモン:先天性副腎過形成(CAH)の研究
先天性副腎過形成(CAH)は、副腎のホルモンを作る働きが生まれつき弱い病気です。病型によっては、女性の体で生まれた子が胎児期から多くの男性ホルモンにさらされます。
オランダの研究チーム(Dessensら、2005年)が過去の研究や症例報告をまとめたところ、女性として育てられた46,XXのCAHの人250人中13人(5.2%)に、性自認に関する深刻な葛藤が報告されていました。
残る237人は女性としての性自認を持っていました。胎児期のホルモンが関わる可能性を示す結果ですが、影響の大きさまではわかりません。
③ 脳:脳の構造を調べた研究
1995年にオランダの研究チームが、MtFの人の脳の一部(分界条床核の中心部)が、女性に近い大きさだったと報告しました(Zhouら、Nature)。
2000年の研究(Kruijverら)でも、42人の脳を調べ、同じ部分の神経細胞の数がMtFでは女性に近いと報告されています。どちらも亡くなった人の脳を調べた、少人数の研究です。
その後の研究をまとめた2021年のレビュー(Frigerioら)は、結果が研究ごとに食い違い、特定の「脳のタイプ」があるとは結論できないとしています。
研究で見られた集団どうしの差は、個人の診断には使えません。「男性脳・女性脳」の検査で、性同一性障害かどうかを判定する方法はありません。
| 研究されている要因 | わかっていること | 限界 |
|---|---|---|
| 遺伝(双子の研究) | 一卵性で2人とも当てはまる割合が高い報告がある | 症例報告が中心。遺伝と胎内環境を切り分けられていない |
| 胎児期のホルモン | CAHの一部で性自認の葛藤が報告されている | 過去の報告のまとめで、影響の大きさは不明 |
| 脳 | 一部の構造が性自認の性に近いという報告がある | 少人数で結果が一致せず、個人の判定には使えない |
性同一性障害は生まれつきじゃない?違和感を自覚する時期
約6割が小学校入学前に自覚している
岡山大学ジェンダークリニックを受診した性同一性障害当事者1,167人を対象にした調査では、性別への違和感を自覚し始めた時期は次のとおりでした(徳島県教育委員会の資料、出典は中塚幹也氏の2017年の著書)。

| 自覚し始めた時期 | 割合 |
|---|---|
| 小学校入学前 | 56.6% |
| 小学校低学年 | 13.5% |
| 小学校高学年 | 9.9% |
| 中学生 | 9.7% |
| 高校生以降 | 7.9% |
| 不明 | 2.5% |
56.6%が小学校入学前、89.7%が中学生までに違和感を自覚していました。ただし、専門医療機関の受診者の調査で、すべてのトランスジェンダーに当てはまるとは限りません。
また、これは「違和感に気づいた時期」で、生まれつきかどうかを確かめたデータではありません。MtFはFtMより、中学生以降に自覚した人が多い傾向も見られました(MtFとはで詳しく紹介しています)。
思春期以降や大人になってから気づく人もいる
この調査では、高校生以降に自覚した人が7.9%いました。大人になって初めて気づいた人の割合は、このデータだけではわかりません。
子どもの頃は言葉にできず、思春期の体の変化や情報に触れたことをきっかけに気づく人もいます。気づいた時期が遅いからといって、「思い込み」だとは限りません。
考えを整理したいときは、性別の違和感についてのセルフチェックも参考になります。ただし、セルフチェックで診断や性自認の判定はできません。
「生まれつきかどうか」はまだ決着していない
ここまでの研究からは、体の要因が関わる可能性はありますが、すべての人が生まれつきだと証明されたわけではありません。
生まれつきかどうかを証明する検査はなく、それを証明することは診断や治療の条件ではありません。ただし、診断・体の治療・戸籍の性別変更には、それぞれ別の要件があります。
自覚した時期や自分の理解が後から変わることと、原因が後天的だと証明されることは別の話です。
性同一性障害は親の育て方が原因?
育て方で生じるという因果関係は確立されていない
「育て方が悪かったのでは」と自分を責める親御さんは少なくありません。しかし、性別不合が親の育て方によって生じるという因果関係は、医学的に確立されていません。
原因の研究は主に遺伝・ホルモン・脳といった体の要因を対象にしていて、親の特定の接し方が性別不合を引き起こすと判断できる根拠は示されていません。
一方で、性自認がどう育つかと、本人が安心して自分を表現できる環境は別の話です。家族の関わり方は、本人の安心やつらさに大きく影響します。
同性愛(性的指向)とは別のもの
性同一性障害は「自分の性別をどう認識しているか(性自認)」の問題で、「誰を好きになるか(性的指向)」とは別のものです。
FtMでも男性を好きになる人、MtFでも女性を好きになる人がいます。違いはトランスジェンダーとはでも解説しています。
家族ができること
- 原因探しや自分を責めることより、本人の話を否定せずに聞く
- 本人の同意なく、ほかの人に話さない(アウティングをしない)
- 本人が望めば、一緒にジェンダー外来などの専門家に相談する
家族の相談を受け付けている医療機関もあります。全国の医療機関は病院・クリニック検索で探せます。
妊娠中のストレスや過ごし方は関係ある?
「妊娠中のストレスが原因では」と心配する声もあります。イギリスの約1万4,000件の妊娠データを使った研究(Hinesら、2002年)は、妊娠中のストレスと、子どもの3歳半ごろの性別に関連した遊び方などの関係を調べました。
男の子では関連が見られず、女の子でも影響はほとんどないか、あってもわずかでした。ただし、この研究は性自認や性別不合を調べたものではありません。
お母さんの妊娠中の行動と性別不合を結びつける、確立した根拠はありません。
CAHのように胎児期のホルモンが関わる例はありますが、これは病気によるもので、妊娠中の行動で決まるものではありません。
性同一性障害は病気?「性別不合」として精神疾患から外れた
WHO(世界保健機関)の国際疾病分類ICD-11では、「性同一性障害」は精神疾患の分類から外れ、「性の健康に関する状態」の中の「性別不合」になりました(2022年発効)。
WHOは理由として、トランスジェンダーであることは精神の病気ではないという現在の知見と、精神疾患として扱うことが大きな偏見につながることを挙げています。
アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5(2013年)でも、「性同一性障害」から「性別違和」に名称が変わりました。違和感そのものではなく、それによる苦痛に注目する考え方です。
名称の変更や、性同一性障害の基本については性同一性障害(性別不合)とはで詳しく解説しています。
原因がわからなくても診断・治療は受けられる
原因がわからなくても、診断や治療を受けるのに原因を特定する必要はありません。診断は、精神科医がガイドラインに沿って、本人の話や経過をもとに行います。
- 診断書のもらい方や費用:性同一性障害の診断書
- ホルモン療法:男性ホルモン(FtM)/女性ホルモン(MtF)
- 受診先:全国の病院・クリニック検索
原因が気になって苦しいときに
「なぜ自分はこうなんだろう」と原因を探し続けて、つらくなる当事者もいます。
ただ、原因がわからないのは研究がまだ途中だからで、あなたや家族のせいではありません。原因探しより、今の苦痛を軽くする方法を考えるほうが助けになることが多いです。
性同一性障害の原因に関するよくある質問
- 性同一性障害は遺伝する?子どもに遺伝する?
-
双子の研究では遺伝の影響を示す報告もありますが、一卵性双生児でも片方だけのことが多く、遺伝だけで決まるとはいえません。親が当事者だと子どもも必ずそうなる、という根拠もありません。
- 性同一性障害は検査でわかる?
-
血液検査や脳の画像検査で判定する方法はありません。診断は、精神科医が本人の話や生育歴などをもとに行います。
- 大人になってから性別に違和感を持つことはある?
-
あります。国内の受診者の調査では、高校生以降に自覚した人が7.9%いました。気づいた時期だけで判断せず、専門の医療機関に相談してください。
- 性同一性障害は後天的になることはある?
-
自覚した時期や自分の理解が後から変わることはあります。ただ、それは原因が後天的だと証明されたこととは別です。生まれつきか後天的かを、個人について判定する方法はありません。
- 性同一性障害は治る?
-
性自認を変えることを目的とした治療は行われていません。体と性自認の不一致による苦痛を和らげるため、本人の希望に応じてカウンセリング、ホルモン療法、手術などが行われます。
- 親の育て方や家庭環境が原因?
-
性別不合が親の育て方によって生じるという因果関係は、医学的に確立されていません。原因は現在も明確にはわかっていません。
まとめ|原因はまだ不明。自分や家族を責める必要はない
性同一性障害の原因は、現在も明確には解明されていません。遺伝・胎児期のホルモン・脳の研究から、体の要因が関わる可能性が研究されている段階です。
親の育て方や妊娠中の過ごし方で生じるという因果関係は、医学的に確立されていません。原因がわからなくても、診断や治療は受けられます。
違和感に悩んでいるときは、一人で抱え込まず、専門の医療機関に相談してください。
参考にした資料(2026年11月確認)
- 難波祐三郎・松本洋輔(岡山大学病院 ジェンダーセンター)「性同一性障害者の治療」法制審議会資料、2016年
- 日本精神神経学会「性別不合に関する診断と治療のガイドライン(第5版)」
- Hembree WC, et al. Endocrine Treatment of Gender-Dysphoric/Gender-Incongruent Persons. J Clin Endocrinol Metab. 2017
- Heylens G, et al. Gender identity disorder in twins: a review of the case report literature. J Sex Med. 2012
- Karamanis G, et al. Gender dysphoria in twins: a register-based population study. Sci Rep. 2022
- Dessens AB, et al. Gender dysphoria and gender change in chromosomal females with congenital adrenal hyperplasia. Arch Sex Behav. 2005
- Zhou JN, et al. A sex difference in the human brain and its relation to transsexuality. Nature. 1995
- Kruijver FP, et al. Male-to-female transsexuals have female neuron numbers in a limbic nucleus. J Clin Endocrinol Metab. 2000
- Frigerio A, et al. Structural, Functional, and Metabolic Brain Differences as a Function of Gender Identity or Sexual Orientation: A Systematic Review. Arch Sex Behav. 2021
- Hines M, et al. Prenatal stress and gender role behavior in girls and boys. Horm Behav. 2002
- WHO. Gender incongruence and transgender health in the ICD
- 徳島県教育委員会 性的マイノリティに関する資料(中塚幹也『封じこめられた子ども、その心を聴く』2017年のデータを掲載)



