戸籍の性別変更の手続きとは【まず結論】
戸籍の性別変更で何が変わる?
戸籍の性別変更が認められると、戸籍に記載されている「男」「女」の表記が書き換わります。
これにより、パスポート、運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証といった公的書類の性別もすべて新しいものに統一できるようになります。
社会生活のあらゆる場面で提示する書類に、自認する性別が反映されること。
これが戸籍の性別変更がもたらす最大の変化です。
就職時の書類、銀行口座、病院の受付など、「性別欄」が登場するたびに感じていたストレスが軽減されたという声は非常に多いです。
性別変更は家庭裁判所へ申立てする手続き
戸籍の性別変更は、市区町村の役場で窓口申請するだけで完了するものではありません。
住所地を管轄する家庭裁判所に「性別の取扱いの変更」を申し立て、裁判所の審判によって認められる必要があります。
手続き自体は本人が一人で行うこともできますし、弁護士に依頼することも可能です。
法律に詳しくない方でも、書類さえ揃えれば自力で進められるケースが多いので、過度に身構える必要はありません。
戸籍の性別変更にかかる期間の目安
申立てから審判が確定するまでの期間は、おおよそ1〜3か月が目安です。
書類に不備がなくスムーズに進んだ場合は1か月前後で確定することもありますが、裁判所から補正を求められたり面談が行われたりすると、もう少し時間がかかります。
審判確定後に市区町村役場で戸籍の反映手続きを行い、さらにパスポートや免許証の変更手続きが続きます。
戸籍の変更だけでなく、関連書類の切り替えまで含めると、全体で2〜4か月は見込んでおくとよいでしょう。
戸籍の性別変更の法律と制度
性別変更が認められる仕組み
日本で戸籍上の性別を変更できる法的根拠は、2004年に施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)」です。
この法律は、一定の要件を満たした方に対して、家庭裁判所の審判を経て性別を変更する道を開いたものです。
施行から20年以上が経過し、制度の運用や要件をめぐっては社会状況の変化に合わせた見直しが繰り返し議論されています。
2023年には最高裁が一部の要件を違憲と判断し、今まさに過渡期にある制度だと言えます。
家庭裁判所が審理する理由
性別変更が「家庭裁判所の審判事項」とされているのは、戸籍という公的記録の信頼性を保つためです。
申立人が法律の定める要件を本当に満たしているかどうかを、裁判官が書類や場合によっては面談を通じて確認します。
とはいえ、これは裁判(訴訟)ではなく「非訟事件」と呼ばれるカテゴリーの手続きです。
相手方がいるわけでもなく、公開の法廷で争うわけでもありません。書面のやりとりが中心で、多くの場合は穏やかに進みます。
戸籍の性別変更の条件(要件まとめ)
法律上の性別変更の条件とは
特例法が定める性別変更の要件は、大きく次の5つです。
- 2名以上の医師から性同一性障害の診断を受けていること
- 18歳以上であること
- 現時点で婚姻していないこと
- 未成年の子がいないこと
- 生殖腺がないか永続的に機能を欠く状態にあること
以前は⑥として外観に関する要件(変更後の性別の外観に近似していること)もありましたが、こちらも論点になっています。
上記のうち⑤の生殖腺要件は2023年に最高裁で違憲と判断されました(詳しくは次の項目で)。
残りの要件についても個々に議論が続いており、将来的には変更される可能性があります。
2023年最高裁で無効となった不妊要件
この決定の核心は、性別変更を望む方に対して事実上の不妊手術を強いることが、憲法13条が保障する身体への不当な侵害にあたる、という点にあります。
つまり、手術を受けなくても性別変更の審判を受けられる方向に大きく舵が切られたことになります。
ただし注意が必要なのは、最高裁はこの決定で不妊要件のみを違憲としたのであって、他の要件(外観要件など)についてはこの決定では直接判断していない、という点です。
外観要件に関しては別の裁判で争われており、今後の司法判断を注視する必要があります。
外観要件など現在の運用について
外観要件(特例法第3条1項5号後段)は、「変更後の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」と定められています。
この要件の運用は裁判所によって判断が分かれており、どの程度の外観変化を求めるかは現時点で統一的な基準がありません。
ホルモン療法による変化で足りるとする裁判例もあれば、手術が必要とする判断が残っている例もあります。
ご自身のケースがどう判断されるかは、ジェンダー法に詳しい弁護士に事前に相談しておくことを強くおすすめします。
戸籍の性別変更の必要書類
性別変更申立てに必要な書類一覧
家庭裁判所への申立てに必要な書類は、主に次のとおりです。
- 性別の取扱いの変更の申立書(裁判所のウェブサイトからダウンロード可能)
- 精神科医2名分の診断書
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(裁判所によって金額が異なりますが、概ね数百円~1000円程度)
裁判所によっては追加で住民票や身分証の写しを求められる場合もありますので、申立て前に管轄の家庭裁判所に電話で確認しておくとスムーズです。
医師の診断書について
特例法では、「2名以上の医師により性同一性障害であることが診断されていること」が要件の一つです。
つまり、精神科医2名がそれぞれ独立に診断書を発行する必要があります。
診断書にはガイドラインに沿った所定のフォーマットがあり、生育歴・性自認の経過・身体的診察の結果・ホルモン治療や手術歴の有無などが記載されます。
ジェンダー外来やGID専門クリニックで診断を受けている方は、主治医に「家庭裁判所提出用の診断書」を依頼すれば対応してもらえるのが一般的です。
診断書の作成費用は1通あたり5,000〜20,000円程度が目安です。
2名分が必要ですので、合計で1〜4万円ほど見込んでおいてください。
戸籍謄本など取得する書類
戸籍謄本(全部事項証明書)は、本籍地の市区町村役場で取得できます。
本籍地が遠方の場合は郵送での取り寄せも可能です。1通あたり450円が標準的な手数料です。
マイナンバーカードをお持ちの方は、コンビニのマルチコピー機で戸籍証明書を取得できる自治体も増えています。
発行までに数日かかる場合もありますので、余裕を持って準備しておくと安心です。
戸籍の性別変更の手続きの流れ
家庭裁判所へ申立てするまで
まず、管轄の家庭裁判所を確認します。
申立ては住所地の家庭裁判所に対して行います。
東京にお住まいなら東京家庭裁判所、大阪なら大阪家庭裁判所という具合です。
必要書類がすべて揃ったら、申立書に記入し、診断書・戸籍謄本・収入印紙・郵便切手と一緒に家庭裁判所の窓口に提出します。
郵送での提出も可能な裁判所が多いです。
提出の際に受付番号が発行されますので、控えを保管しておいてください。
申立て後の審理・面談
申立てが受理されると、裁判官が書面を審査します。
書類に不備や不明点がなければ、そのまま書面審理だけで審判が下りることもあります。
一部のケースでは、裁判官または書記官から面談(審問)が求められることがあります。
面談では申立人ご本人の性自認の確認、現在の生活状況、治療の経過などが口頭で質問されます。
かしこまった裁判のような雰囲気ではなく、個室での穏やかな対話形式が一般的です。
所要時間は15〜30分ほどです。
審判確定後の戸籍反映
性別変更を認める審判書が交付されると、審判書の送達日から2週間の不服申立て期間を経て審判が確定します。
確定後、審判書の謄本と確定証明書を市区町村の戸籍窓口に持参し、届出を行います。
届出が受理されれば、戸籍上の性別が正式に書き換わります。
届出に際しては特に手数料はかかりません。
届出後、新しい戸籍謄本が発行できるまでには数日〜1週間程度かかることが多いです。
戸籍の性別変更にかかる費用
申立て費用(収入印紙・切手)
家庭裁判所への申立てに必要な収入印紙は800円です。
これに加えて、裁判所からの連絡用に郵便切手を納める必要があります。
金額は裁判所によって異なりますが、おおむね500〜1,500円程度です。
つまり、申立てそのものにかかる費用は1,300〜2,300円程度と、意外と安価です。
診断書・書類取得費用
費用の大部分を占めるのが、精神科医2名分の診断書です。
1通5,000〜20,000円として、2通で1〜4万円が相場です。
ジェンダー外来の通院歴がある方は、日常の診察の延長で依頼できるため比較的安く済むことが多いです。
戸籍謄本の取得は1通450円。住民票が必要な場合も数百円程度です。
その他かかる費用
弁護士に手続きの代行や助言を依頼する場合は、5〜15万円程度の報酬がかかることがあります。
ただし、書類作成の方法は裁判所のウェブサイトにも案内がありますし、支援団体が無料で相談に乗ってくれる場合もありますので、必ずしも弁護士が必要というわけではありません。
トータルの費用をまとめると、自力で行う場合は1〜5万円程度、弁護士に依頼する場合は6〜20万円程度が大まかな目安です。
戸籍の性別変更後に必要な手続き
戸籍が変わったらそれで終わりではなく、公的書類や各種契約の性別情報を順番に書き換えていく必要があります。
やるべきことが多いように感じますが、リストにして一つずつ片付けていけば大丈夫です。
住民票・マイナンバーの変更
住民票:戸籍の変更届を提出した市区町村役場で、住民票の性別も連動して変更されるのが通常の流れです。
マイナンバーカード:上記と同じ窓口または別の担当窓口で手続きします。
カードの再発行が必要になる場合は、発行手数料(電子証明書付きで1,000円程度)がかかることがあります。
免許証・パスポートの変更
運転免許証:最寄りの警察署または運転免許センターで記載事項の変更届を行います。
新しい戸籍謄本と住民票を持参すれば、裏面に変更事項が記載されるか、次回更新時に新しい免許証が交付されます。
パスポート:都道府県のパスポートセンターで「切替申請」を行います。
戸籍謄本・パスポート用写真・申請書・手数料(10年用で16,000円、5年用で11,000円)が必要です。
渡航予定がある場合はパスポートを優先して手続きしてください。
銀行・保険・勤務先の変更
銀行口座やクレジットカード:各金融機関の窓口またはオンラインで変更届を出します。
保険証:保険者(健康保険組合や市区町村の国保窓口)に届け出ると、新しい保険証が発行されます。
勤務先:人事担当者に変更の旨を伝え、社会保険・雇用保険・給与台帳などの記録を更新してもらいます。
職場への説明をどこまでするかは個人の判断ですが、書類上の変更は必須ですので、少なくとも人事の担当者とはコミュニケーションを取る必要があります。
その他考えられる性別が登録されているサービスの一例です。
- 生命保険
- 年金記録
- 電子マネーアプリ
- 定期券
- 大学の卒業証明書 etc…
思いつくものをリストに書き出して、優先順位をつけて進めていくのがおすすめです。
戸籍の性別変更に関するよくある質問
家族や職場に知られる?
家庭裁判所での手続きは非公開で行われますので、申立てをしたこと自体が公表されることはありません。
ただし、戸籍には変更の履歴が記録として残ります。
本籍地を移す(転籍する)ことで、新しい戸籍からは変更前の情報が表面上は見えなくなる方法もありますので、プライバシーが気になる方は支援団体や弁護士に相談してみてください。
職場には、社会保険などの書類上の変更が必要になるため、少なくとも人事担当者には伝えることになります。
同僚や取引先にどこまで開示するかは、ご自身の判断で決めて構いません。
名前変更は同時にできる?
可能です。
戸籍上の名前を変更する手続き(名の変更許可の申立て)は、性別変更とは別の申立てになりますが、同じ家庭裁判所に同時に申し立てることができます。
性別変更と同時に名前も変えることで、書類の切り替えを一度にまとめられるメリットがあります。
名前の変更には「正当な事由があること」が求められますが、性別変更に伴い現在の名前が社会生活上著しい支障となっている場合は認められやすい傾向があります。
名前変更の申立書も裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。
性別変更にかかる期間は?
冒頭でもお伝えしたとおり、申立てから審判確定まではおよそ1〜3か月です。
書類に不備がなくスムーズに進む場合は1か月以内で確定することもあります。
面談が設けられる場合はやや長引く傾向がありますが、3か月を大幅に超えることは稀です。
審判確定後の戸籍反映は1〜2週間、その後の関連書類(免許証・パスポートなど)の切り替えにさらに数週間を見込んでおくと、全体のスケジュール感がつかめます。
まとめ|要件や運用の変化に注意
戸籍の性別変更は、多くのトランスジェンダーの方にとって社会生活の安心感を大きく変えてくれる手続きです。
必要な書類を揃え、家庭裁判所に申立てをし、審判を経て確定する。
流れそのものはシンプルですが、要件や運用がまさに変化の途上にある点には注意が必要です。
この記事が、性別変更の手続きを検討されている方の見取り図として役立てば幸いです。具体的な準備を始める際は、最新の要件をジェンダー法に詳しい弁護士や支援団体で確認してから動き出してくださいね。





